【美山かたり】

vol.34

世界中の若者をお出迎え。地域との交流を育むユースホステル

80以上の国と地域に3000ヶ所あるユースホステル。日本にも北は北海道、南は沖縄まで約140ヶ所あります。その一つが、美山ハイマートユースホステルです。運営するのは、美山に移住した足利栄治さん・足利美智恵さんご夫婦。30年に渡り、美山を訪れる世界中の旅人を受け入れてきました。

かやぶき屋根の家を移築し、ユースホステルを開業

  • 美山ハイマートユースホステル

約200年前のかやぶき民家を移築、改修し、美山ハイマートユースホステルを開業したのは1994年のこと。前年12月には「かやぶきの里」が国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された追い風もあり、かやぶき民家のユースホステルは、一躍、旅人に人気のスポットになりました。

ユースホステルの形態にしたのは、栄治さん自身が旅人として、ユースホステルを利用し、その魅力に取り憑かれてきたから。

「ユースホステルの魅力は、旅人同士の語り合いです。どこへ行った、あそこがおすすめなどの情報交換をしたり、思い出を語り合ったりして楽しかったですね」(栄治さん)
1997年には、兵庫県明石市出身の美智恵さんと結婚。美山に遊びに来て、お客さんとして美山ハイマートユースホステルに泊まったことがきっかけで出会い、以来、二人体制で運営するようになります。

「田舎暮らしへの憧れもなく、気づいたらそのまま居着いてしまいました(笑)美山の空気がよかったのかな。集落もお付き合いしやすい方ばかりで気負いも不安もありませんでしたね」(美智恵さん)

30年来続くお客様とのお付き合い

ユースホステルはドイツで生まれ、100年以上の歴史の中で世界最大の宿ネットワークを築いています。運営者の個性が溢れた様々なタイプのユースホステルがありますが、共通するのは、世界中の若者が安心安全で経済的な旅ができるような環境づくりを目指していること。比較的安価な宿泊料を基本に、旅人同士や地域との交流を重視しています。

美山ハイマートユースホステルも、「親戚の家に遊びに来た感じ」の距離感を意識しながら、お客様とお付き合いをしてきたと話します。

「セルフサービスも多く、自分で布団を敷いてもらいますし、食器も片付けてもらいます。時には、近くのバス停に届く朝刊を、代わりにとってきてもらうこともありますよ。近所の人に会ったら挨拶してねって言いながら(笑)。普通の暮らしを体感してもらっています」(美智恵さん)

旅館やホテルのようなおもてなしはできないけれど、距離感の近さやご夫婦の人柄に惹かれて、足繁く通うリピーターもいるそうです。

「開業時からお付き合いいただいているお客様は、まるで本当の親戚のよう。『ユース』と言っていますが、お客様も私たちと一緒に歳をとって、最近では還暦のお祝いをすることも増えてきました(笑)」(美智恵さん)

就職祝い、卒業祝い、結婚祝い、そして還暦祝いに快気祝い。お客様の節目でご利用いただく際には、朝食に赤飯を炊いてお祝いをしてきました。
また、夕食はみんなでテーブルを囲んで食べるのが、美山ハイマートユースホステル流です。

「夕食はお客様と一緒に私たちもいただいています。ひとり旅の方が多いので、夕食くらいはみんなで食べたら、楽しいですよね。『料理に使っている筍は近くで採れました』『今の時期は蛍が見えますよ』なんて話をしています」(栄治さん)

美山と台湾を繋ぐ、教育旅行の受け入れ

ひとり旅やファミリー旅、ご夫婦やカップルでの旅など、様々なお客様をお迎えしてきた美山ハイマートユースホステルは、近年、台湾から美山へやってくる教育旅行の受け入れも担当しています。

一度に受け入れるのは、台湾の学生4名。1週間の日本滞在のうち、1泊2日を美山で過ごしてもらっています。

  • 台湾からの教育民泊の受け入れの様子

「メインは一緒に夕食を作って、食べること。釜戸でご飯を炊いたり、前菜や天ぷらを作ったりします。留学生にも天ぷらをあげてもらっているんですが、その時は知っている日本の言葉を言いながら食材を油に入れていくゲームをして、楽しくやっています」(美智恵さん)

「ここは、かやぶきの里からも離れていて、観光名所はありません。でも蛍が飛んでいたりカエルの鳴き声が響いていたりと、普通の田舎の暮らしがあります。夜は熊や鹿が出るから、勝手に外出しないでねって話をすることも。そういう普通の暮らしを味わってもらいたいですね」(栄治さん)
宿泊者に書いてもらっている思い出ノートには、30年分の出来事がぎっしりと詰まっています。留学生がスケッチブックに描いた絵を見ると、美山で過ごした時間がいかに楽しいものだったのかが伝わってきます。

コンシェルジュならではの視点で美山をご案内

また、2023年には美智恵さん、2024年には栄治さんが、地域住民にしかわからない魅力をガイドとして伝えられるようになるための、「美山観光コンシェルジュ養成講座」を受講しました。

「美山は1955年に知井.村、平屋村、宮島村、鶴ヶ岡村、大野村の5つの村が合併してできました。70年近く経ちますが、今でも村単位で動くことがたくさんあります。私は外から来たので、ユースホステルのある地域のことしか分かりません。講座では町内各地へ行けるので、この機会に美山のことを学ぼうと思いました」(美智恵さん)

  • 観光コンシェルジュ養成講座 町内の観光施設見学の様子

「旅は地域の人と触れ合うのが一番の醍醐味です。以前は、『レンタルエイジ』と題して、まちのあちこちを案内して、地域の人を紹介していました。今も、夕食前に時間があれば一緒に近くを散歩しています」(栄治さん)

養成講座に通ったことで、これまで行ったことのなかったお店に足を運んだり、新たな出会いがあったと振り返るお二人。旅人から美山のおすすめスポットを聞かれた時には、養成講座で出会った方のお店を紹介するなどして、ネットワーキングをすることもあります。

​​​​​​​30年もの間、旅人を迎え入れてきた二人から見て、美山のおすすめの過ごし方はどのようなものでしょうか。

  • ハイマートユースホステルの人気者 キャサリンと

「いつも忙しくしているから、何もしない旅もいいんじゃないでしょうか。本を読んだり、畑仕事をしたり、やってみたいことがあればオーダーメイドで叶えます。夕食のメニューも、牡丹鍋や地鶏のすき焼きを出していますが、元々はお客様のご要望から生まれたものなんです。ご希望を遠慮なく言ってしてもらえるのが私たちだと思うので、気兼ねなく相談して欲しいですね」(美智恵さん)

常連のお客さんには、「20年後、50周年を迎えたら華々しく散るから遊びに来てね」と冗談混じりに話しているというお二人。宿を営む人にとって、お客様と共に歳を重ねていくことができるのは、大きな喜びではないでしょうか。どんな時も「おかえり」と迎えてくれる栄治さんと美智恵さんのあたたかさを求めて、今日もまた遠くからお客様がかやぶき屋根のユースホステルに足を踏み入れます。