【美山かたり】

vol.27

商品開発と観光交流の拠点に。里のごほうびが集まるセレクトショップ

京都府のほぼ中央部に位置する南丹市。京都府の13.4%の面積を占める616.4 km²の広大な土地に、約3.1万人が暮らしています。

観光地としても人気のエリアですが、少子高齢化の課題に直面しており、2045 年には 46.4%が老齢人口となる予測があります。そこで、南丹市では移住・定住に向けた支援や、地域社会の維持・向上の取り組みを進めています。
その一つが、地域おこし協力隊です。都市部から移住し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR、農林水産業に従事して、任期後、地域に定住することが期待されています。

南丹市では2023年10月現在6名の協力隊員が活動中。永尾俊晴さんは、大阪市守口市から移住し、2022年9月に着任しました。

地域おこし協力隊として美山へ

守口市で生まれ育ち、大学は兵庫へ。東京で働いていたこともある永尾さんが美山と出会ったのは数年前。高校の同級生が、地域おこし協力隊として美山に着任したことを機に遊びに来るようになったことがきっかけでした。

「学生時代から地方創生に興味があり、いつか里山に移住したいと考えていた」と永尾さん。何度も美山に足を運ぶうちに、この地に惹かれていったそうです。

「美山の良いところは、里山文化資源が豊富なこと。昔からある文化が色濃く残り、景観を守りながら生きていている人々がいます。そうした魅力は、日帰りで観光で訪れるだけではわかりません。地元の人の思いや作り手の背景を可視化して、届けたいと思ったんです」

協力隊として永尾さんに課せられたミッションは、「地域資源の付加価値向上」。中小企業向け経営コンサルティング会社で、食品・菓子業界の店舗開発や商品企画・販売促進のサポートを行っていた経験を活かし、美山の素材を使った商品企画や販売促進を期待されています。

地域の資源を掛け合わせて商品化

着任後、永尾さんは地元の人からの紹介やSNSを駆使し、多くの住民や生産者と会ってきました。そこから美山ならではのいくつかの新商品を生み出しています。

例えば、「京都美山かやぶきけんぴ美山山椒」。これは永尾さんが美山に来るきっかけにもなった地域おこし協力隊の友人が栽培するさつまいもと、美山山椒を組み合わせて作ったオリジナル商品です。
美山で育ったお芋を細切りにし、葺きたてのかやぶき屋根のような黄金色になるまで素揚げし、粉山椒をまぶした一品は、おつまみとして好評を博しています。

また、お弁当屋さんと連携し、南丹市内の食材を使用した季節替わりの「里のごほうび弁当」を開発。10数種類のおかずを竹皮容器に詰めています。「おそらく市内で一番地元の食材を使ったお弁当です」と永尾さん。ジビエや旬の野菜を使った栄養満点で、彩りも美しいお弁当は、口コミで噂が広がり、月4回の販売日を楽しみにするお客さんも増えています。

里のごほうびを集めた「みやま堂」

こうしたオリジナル商品に加え、手間暇かけて作られた商品を販売するセレクトショップ「みやま堂」を、永尾さんは2023年春、美山にオープンしました。道の駅「美山ふれあい広場」から徒歩5分ほど、かやぶきの里に続く旧街道に面しており、美山を訪れた観光客は一度は必ず通る好立地です。

コンセプトは「里のごほうび」。“自分へのごほうび”、“里山からのごほうび”として楽しんでいただけるようにとの願いを込めています。

かつては商店だった店舗スペースをリノベーションしたお店は、どこか懐かしさを感じるレトロな空間。店内で使用している什器は、商店で使用されていた棚を再利用しています。また、イートイン用の椅子は、地元の林業従事者の方に製作を依頼し、近隣の木材を切り出した丸太椅子を利用するなど、地域資源を活かしたものです。

店内を見渡すと、先に紹介した「京都美山かやぶきけんぴ」や「里のごほうび弁当」以外にも、野草を使った茶葉や手作りジャム、町内陶芸作家の美山土マグカップなど、美山のお土産にぴったりの商品がずらり。永尾さんの手書きで書かれたPOPを読んでいるだけで、ワクワクしてきます。

1番人気は「炭焼きやきいも」です。美山はかつて、農業の傍ら冬場に炭焼窯で木炭を作り市街へ販売していた炭焼きの里でした。現在では数少ない炭焼窯で作られた美山産の木炭を用いて、美山産のさつまいもをじっくりと焼き上げます。

「美山の日常を観光客に知ってもらいたいと思いお店を始めましたが、意外にも焼き芋が地元の方に人気で老若男女に足を運んでいただいています。焼き芋を食べながらお茶会をされている方々もいらっしゃいますよ」

商品企画の拠点であり、観光交流拠点でもある場に

協力隊として着任した半年後にみやま堂をオープンしたため、移住してからの一年はあっという間に過ぎ去った、と笑う永尾さん。しかしその分、「やりたいことをやるためのスタートラインに立てた」と嬉しそうです。

これから目指すことは?

「地元の方も観光客も来てくれる場の特性を活かして、新しい商品が生まれる拠点にしたいですね。そして、みやま堂を起点に商品を作っている生産者に会いに行ってもらえるような観光交流拠点にもなればと考えています。作り手の話を聞くと、商品の背景を知れてもっと美山って面白いと思ってもらえるはずですから」

「この食材で商品を作れないかな?」「こんなことできる方、知らない?」「新製品を作ったんだけど、テスト販売してもいい?」など、さまざまな相談が持ち寄られる場所になれば、みやま堂から里山の資源を活かした新商品が生まれ、訪れた人に今よりも美山の魅力を伝えることができるはず。そんな良い循環を目指して、永尾さんの挑戦は始まったばかりです。

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