近年、観光のあり方が変わりつつあります。有名な観光スポットに行き、その土地の名物を味わうだけではなく、地域の人との交流や行事・イベントへの参加、暮らしの体験を目的に足を運ぶ人も増えています。美山は30年ほど前から、グリーンツーリズムやエコツーリズムに取り組み、2021年には国連世界観光機関が選ぶ「ベスト・ツーリズム・ビレッジ」の一つとして世界43地域と共に選定されました。
美山で最も大きい宿泊施設「河鹿荘」の館長を務める大野琢馬さんは、国内外の観光客をお出迎えしながら、地域課題の解決につながる新たな観光の切り口にチャレンジしています。
都市と農村の交流を目指して生まれた、観光複合施設
現在の仕事は、河鹿荘の宿泊対応やキャンプ場の利用対応に加え、着地型商品(旅行者を受け入れる地域事業者が作る商品)の企画、教育旅行の実施、それらに紐づく観光プロモーションと多岐に渡ります。
また、地域との関わりも深い仕事のため、田植えや餅つきといった地域行事にも積極的に参加。地域の子どもからシニアまでさまざまな方と連携しながら、美山ならではの観光のあり方を模索してきました。
観光を切り口に、地域課題を解決するには?
賑わいを見せる観光地として評価をされることの多い美山ですが、「地域のための観光にならないと、観光公害と言われたり、観光受益者以外は非協力的になってしまったりする可能性がある」と大野さんは、課題に感じています。
「観光の切り口で地域課題を解決しようとしても、地元の協力を得られなければ前に進みません。コアな観光をしていただき、地域の方と交流する機会をもつことが、観光客にとっても地域住民にとっても楽しみになると考えます」
そこで、2008年頃から美山町自然文化村は、教育旅行の受け入れを開始。「繋がり」をテーマに、学生の受け入れを進めてきました。
大学生のサポーターを募集し、関係人口を増やす
地域との連携を強化する中で、サポータープログラムもスタート。より地域課題の解決に直結するプログラムとして、期待されています。
「コロナ禍が明けて、おかげさまで観光客は増えていますが、人口減少と少子高齢化の二つは美山が抱える大きな課題です。年間約100人ずつ人口が減っている中で、地域の魅力を形成している伝統行事やお祭り、イベントなどの継続が難しいことが多々出てきました」
それを解決する手段の一つが、サポータープログラム。観光の切り口で持続可能な地域づくりに貢献できないかと考え、一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会と連携しながら受け入れを進めています。
「今年度はどちらも10名ほどの学生が参加しました。観光客、地域の方との交流ができる学びの場になることを意識しています」
他にも伝統食である鯖のへしこ作りのお手伝いや稲刈り作業、かやぶきの里の茅刈りなどを体験するプログラムなど、年間を通して募集しています。
外から吹く新たな風が、地域の活力に
サポーターに応募する学生の多くは、かつて美山を訪れたことがある人。大学のゼミ活動や他のイベントボランティアとして美山を訪れた際に興味を持ち、より深く地域のことを知ろうと応募してくれます。
京都市内のみならず大阪や神戸、時には九州からサポーターとして美山に来る学生たち。現場に足を運んだからこその気づきを得てもらえていると、大野さんは話します。
また、学生を受け入れる中で、地域側の変化も少しずつ生まれ始めています。
「学生が来ることで、おじいちゃん、おばあちゃんが力仕事をする必要がなくなったり、いつも2週間かかっていた作業が数日で終わったり。実績が生まれることで、受け入れを希望する地域も増えてきています。もちろん、地蔵盆のように地域に住んでいる子どものための行事は、子どもがいなくなれば、たとえ外からお手伝いがきても存続することは難しいでしょう。僕たちはまず、新しい人が外から来ることで残していける行事やイベントを、未来に繋いでいきたいと考えています」
「持続可能な観光や地域づくりのためには、関係人口の増加は欠かせません。外からの視点や力が加わることで、地域の行事が続き、より素敵なものにブラッシュアップされていく。そうした営みが地域の魅力になり、観光客の増加に繋がり、観光客と地域の人がWin-Winの関係性を築いていくことができるのではないでしょうか」