【美山かたり】

vol.1

春は桜、夏は蛍。歴史と自然の町、鶴ヶ岡〈美山町北西部〉

商人、旅芸人、富山の薬売り…さまざまな人が往来した鯖街道の宿場町

※本コラム掲載のイベント内容は2018年のものです。

「ちょっと面白いものがあるのでお見せしましょうか」。鶴ケ岡地区のことを教えて~と訪れた料理旅館「きぐすりや」のご主人、神田和行さんはゴソゴソと古い資料のコピーを机に広げました。それは陰陽師・安倍晴明の子孫である土御門(つちみかど)家が、江戸時代の初期に京都市下条区の自邸から福井県小浜市まで移動した足跡を記した古地図です。それを見ると、土御門一行が途中、鶴ケ岡を経由していることがわかります。難所で知られる堀越峠を越えた旅人たちは鶴ケ岡で一泊し、旅の疲れを癒したのでしょう。このように、かつて鶴ケ岡は若狭地方と京の都を結ぶ主要街道・鯖街道の宿場町として栄えた町でした。

  • 地図を広げる神田さん

「私が子供のころの鶴ケ岡は中心部には飲食店や雑貨屋など多くの商店があり、賑わっていたんですよ。旅館は現在うちだけですが、当時は4つありました。」と神田さん。神田さんが子供の頃は、魚をかついだ商人や旅回りの芸人、薬箱を背負った富山の薬売りなどがきぐすりやを常宿にし、さまざまな人々が訪れるのを楽しみにしていたと言います。鯖街道のなかでも美山から若狭に抜ける若狭街道(周山街道)は、雰囲気のある林道。ブナの原生林が立ち並び、さまざまな史跡もあることから、ウォーキングツアーも人気だそうです。

春は桜、夏は蛍。徒歩や自転車でまわれる見どころがたくさん!

鶴ケ岡地区は現在も見どころが多く、ゆっくりと滞在して自然や歴史文化を楽しみたいという観光客に人気です。また車移動が必須の美山町内で、この地域ならば徒歩やレンタサイクルでもスポットをまわれるのもうれしいポイント。それでは美山ナビ、オススメの見どころをご紹介しましょう。

法明寺桜

鶴ケ岡に住む人々の菩提寺である法明寺。その境内に咲く桜の木は、京の「桜守」として高名な15代佐野藤右衛門さんが発見し、「法明寺桜」と命名された貴重な桜です。山桜の突然変異で花の数や花弁数が多くなった見事な八重桜は、ふんわりモコモコとした姿が愛らしく、満開の美しさは格別です。

この法名寺桜の命を救ったのが、きぐすりやの神田さん。樹齢250年を超え、根や幹が弱って枯れかけているのを案じた神田さんは、昨年つてもないまま16代佐野藤右衛門さんを訪ねて桜の再生を依頼。すぐにかけつけてくれた佐野さんがさまざまな手入れを行ったところ、昨年の春には新たな枝が伸び、見事たわわに花が咲きました。
「開花シーズンには住民が集まって境内で“愛でる会”を開催していますが、今年は一般の方にも来ていただけるようにしたいと計画しています。ここでしか見られない桜をぜひ楽しみに来てください(神田さん)」。“愛でる会”はコンサートや屋台の出店もあり、にぎやかに春の一日を楽しめるイベント。詳細はまた美山ナビでお知らせします。

美山随一の蛍の名所、洞(ほら)

鶴ケ岡の最奥地である洞。初夏の夜には満点の星空と蛍のきらめきが川面に映り、なんとも幻想的な雰囲気です。また落差65mの「音谷の滝」も見どころのひとつ。近年、住民の手によって遊歩道が整備され、滝つぼ近くまで安心して行くことができるようになりました。流れ落ちる滝を臨場感ある角度から眺めることができ、新しい観光スポットとして人気を集めそうです。

ムラガーレ食堂

毎月最終日曜に商店タナセン前に出店するムラガーレ食堂は、地鶏&地卵を使った親子丼や鮎料理、山を駆け回っていた鹿や猪のカレーなど美山のごちそうをたっぷり使った料理が並ぶ、地元ならではの屋台です。鶴ケ岡を拠点とするフォークバンド「あぜみち」のライブなども行われ、地元の人はもちろんバイカーやサイクリストにも人気のイベントとなっています

頭巾山

修験者の頭巾に見えることから名付けられた、福井との県境にそびえる山。標高871mと手頃な高さで2時間半ほどで登れることから、家族向けのハイキングコースに最適です。シャクナゲの自生地としても知られており、4月下旬から5月上旬はピンクの花が咲き乱れる美しい景色を楽しむことができます。

諏訪神社

猪鹿退治の守護神として崇敬される諏訪神社は、1300年の歴史を持ち、境内にも神聖な雰囲気が漂います。15年ごとに中祭り、30年目に大祭りが行われ、特に大祭りは鶴ケ岡内の5つの地区の氏子が獅子舞や太刀振り、神楽、姫踊りなどの伝統芸能を奉納する盛大なお祭りで、京都府無形民俗文化財に指定されています。次の大祭りは2年後の2020年!これを見逃すとあと30年は見ることができませんから、興味のある方はぜひ足を運んでみてくださいね。

「昔からお祭りを中心として、住人たちの結束が強いのが鶴ケ岡のよさ」と神田さんは言います。その結びつきは今も失われることなく、この地域を活性化させようと皆さんで頑張っているそう。ムラガーレ食堂など若者たちによるイベントもスタートし、これからの盛り上がりが楽しみな地域です。ぜひ、鶴ケ岡に遊びに来てくださいね!

教えてくれた人 きぐすりや主人・神田和行さん

家族で料理旅館「きぐすりや」を営む傍ら、美山町の観光振興にも精力的に携わる。美山のことなら何でも答えてくれる生き字引的な人