春の訪れとともに、山菜の旬がスタート
雪解けとともに春まだ浅い美山の里に、蕗の薹(ふきのとう)が顔を出す。春の訪れを告げる山菜である。食用として人気の蕗の花茎で、つぼみや開きかけのものが一番美味しいそうだ。
そんな話を聞かせてくれるのは、梅棹レオさん。福井県との府県境近く、国道162号線沿いの盛郷集落で古民家レストラン「厨房ゆるり」を営む料理人だ。
雪が解け始めると、「ゆるり」の庭先や裏山に、実に多種多様な山菜が出てくるという。まずは2月下旬のふきのとうから、こごみ、雪の下、土筆、タラの芽、よもぎ、わらび、ぜんまい、うど、蕗、お茶の新芽、柿の葉の新芽などへと続き、5月ゴールデンウィークの頃まで10種類以上の山菜を楽しむことができる。レオさんは、毎年庭を見続けていているうちに、この時期のこのあたりにはふきのとう、こちらにはよもぎ……というように、出てくる場所が分かるようになったそうだ。そして、「ゆるり」のお料理には、その時々に採れる山菜が並ぶのである。都会のお店では、日本各地から集まった山菜が一斉に並ぶが、美山では、それぞれの山菜を野山から出てきた一番美味しいタイミングで食べることができるのだ。
山菜のお薦め料理は?
さて、採ってきた山菜はどのように食べるのが一番美味しいのか?――レオさんは、「やはり、天ぷらがお薦めやねえ!」と笑顔で答えてくれた。山菜の苦みが苦手な人も、天ぷらにするとその苦みは和らぐそうだ。
天ぷらには、「抹茶塩」が定番であるが、「ゆるり」のメニューには、“かや塩”とあった。“かや塩”は、琵琶湖の葦の新芽をパウダーにして、塩とブレンドしたものだそうだ。奥さんのゆりさんが生まれ育った滋賀県彦根市の食材とコラボして、茅葺きのお店で提供するから“かや塩”と彼女が命名した。一口いただくと、お茶の葉とは異なる爽やかな緑葉の香り。桜の季節には、“さくら塩”もあるそうだ。
また、取材中にレオさんが出してくれたのは、「ふきのとう味噌」。スプーンで一口いただいてみる。湯がいた蕗の薹を細かく刻んでゴマ油で炒めたあと、味噌、さとう、みりん、酒を入れてゆっくり煮つめていく。冷めると少し固くなるので、ちょっとゆるいめくらいで火を止めて出来上がりだそうだ。ふろふき大根には甘い大根にほろ苦い「ふきのとう味噌」が実によくあう。お酒のあてや冷やっこにも是非。もちろん、白ご飯のお供にもぴったりである。3月頃から道の駅にもさまざまな山菜が並ぶので、購入した方はぜひ試してみて!
ちなみに、山菜には、そのまますぐに食べられるものと、一手間かけて灰汁抜きが必要なものがある。初心者には下処理不要の手軽なこごみがお薦めという。そのまま茹でてサラダによし、炒めてよし、揚げてもよし、パスタやテリーヌにも合うそうだ。冷蔵庫で2週間くらいは保存もできるので、一度にたくさん採ってきても大丈夫。
わらびやタケノコなどは下茹でしたり、灰汁抜きなどの一手間がなければ食べられない。特に、ぜんまいは、採ってきて、茹でて揉んで乾かして。そして、もう一度水で戻してからようやく煮物などにして食べられる。手はかかるが、この地域では、冠婚葬祭やお祭りのご馳走に欠かせない一品だ。乾燥したぜんまいは昔は大切な保存食でもあった。現在は中国産が多く、国産のぜんまいはとても貴重である。
レオさんは、誰に山菜料理を習ったのか? それは、レオさんに引き継ぐまで「厨房ゆるり」を切り盛りしていたお母さん。お母さんは35年前にIターンで美山町にやってきてお店を開いた。当時は、ご近所にたくさんのおばあちゃんたちがいて、山菜や地域に伝わるお料理のことをいろいろと教えてくれたという。その確かな味が今のレオさんのお料理に繋がっている。
紫式部も食べたかも?山菜は身体を整える春のお薬
山菜採りは、今やレジャーのようにもなっているが、その歴史は古く、万葉集や古今集にも数多く詠まれている。
「君がため 春の野に出で 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ」 光孝天皇(百人一首)
この歌は、大切な人のために、雪が降る春の野に出て若菜(山菜)を摘んでいる情景を詠んだもの。山菜は、平安の昔から新春に食べると邪気を払い、病気を退散させるとされていたのである。お正月の七草粥は、この若菜摘みに由来する慣例的な行事だ。
「せり なずな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ これぞ七草」
というように、七草を覚えるのに便利な短歌もある。蕪(すずな)や大根(すずしろ)などの野菜もあるが、ごぎょう(おぎょう・母子草)、はこべら(はこべ)、ほとけのざ(仏の座・三階草)は山菜の一種である。
食材の育った環境が見える。それこそが美山の良さ!
最後に、レオさんに山菜の魅力とは何か、聞いてみた。
「美山の山菜の魅力は、何より安心安全なこと。野山から自然に出てくるものなので、究極の無農薬ですし、どこに生えていたか、周囲の環境まできちんと自分で説明できる食材です。自信をもってお客さんに出せるのが嬉しいですね。」
採っている人が見える、採っている風景が見える――それこそが美山で山菜を味わう醍醐味である。そして、自分自身で採ってみるのはもっと素敵な体験だ。
今年の春は、私も山菜採りを楽しんでいる。土筆は佃煮に、よもぎは茹でて刻んでお餅用に。そして、そろそろタラの芽や花山椒が採れるはず。春の楽しみはまだまだ続く。
大地のパワーを集めて芽吹く山菜。都会では無くしてしまった旬を求めて、採りたての山菜を食べに来ませんか? この春、美山で山菜料理をいただけるお店はこちら。
山菜が食べられるお店
《最後に》観光客は気をつけて! 山菜は勝手に採ってはダメ!
美山の里では、あちらこちらで山菜を目にすることができるが、やはり山菜採りにはルールがある。当然、他人の土地に入ってはいけない。また、山菜の中には、毒があって、食べられないものもあるのでご注意を! 早春の味ふきのとうの根っこ部分にも毒があるので気を付けなければならない。「知らない野草・山菜は採らない、食べない!」が鉄則である。また、山の中には、イノシシやクマなど獣が出没する場合がある。初心者は一人では山に入らない、最初は山菜をよく知る人と一緒かお店の案内で行こう。